日本代表、寺田明日香選手が語る「4足のわらじでキャリアを切り拓く方法」


現役生活を続けながら、仕事や家庭など、将来のこともきちんと考えたい。でも実際のところ、どうやれば両立できるのかが分からない…と、多くのアスリートが不安や悩みを抱えています。2017年7月13日(木)、アスリートのキャリア形成をサポートするパソナスポーツメイトは、 “家庭、選手、仕事、学生”と4足のわらじで自らのキャリアを切り拓く、寺田明日香選手の講演会を開催。予定した定員数を超える参加申込みがあり、会場は熱気に包まれました。その様子をレポートします。

寺田明日香選手プロフィール

1990年1月14日生まれ、北海道札幌市出身。小4から陸上を始め、全国高校総体100mハードル3連覇を達成。3年時には100m、4×100mリレーでも優勝。卒業後、2008~2010年日本選手権陸上女子100mハードル3連覇、2009年世界陸上出場。結婚、出産を経て、2016年に女子7人制ラグビー選手として再始動。

陸上日本代表が、7人制ラグビーに転向?!

なぜ、私がハードルからラグビーに転向したのか。私自身、陸上選手としては五輪出場の夢を果たせていなかったのですが、リオが終わったタイミングで今のトレーナーさんからお話をいただきました。というのも、日本女子7人制ラグビーチームには “圧倒的なスプリント力(短い距離での疾走力)とトライ力 (得点力)を持つ選手がいない”ということで、元陸上選手である私に声がかかったのです。競技者でいられる時間は少なく、ピーク期間は短い。「今じゃなきゃできない!」と思い、チャンスが来たからにはチャレンジするしかないと、アスリートの世界に戻ることにしました。

7人制ラグビーのフィールドは15人制と同じでサッカーコート程の広さがあり、そこで7対7で戦うため、足が速い選手が有利です。私は世界的に強いオーストラリアやニュージーランドの選手とほぼ同じ速さで走れますが、スピードのある選手たちと戦っていかなければならない、日本チームの現状があったんですね。

そして今回、私がアスリートに復帰するにあたり、目指すことが3つあります。1つ目は、競技転向の可能性を広げること。A競技の日本代表からB競技の日本代表になるのは稀ですし、スピードスケートから自転車に転向する“夏季↔冬季”の例はあるのですが、“夏季↔夏季”と転向する選手は例がないので、この可能性を広げたいです。

2つ目は、女性アスリートやスタッフの選択肢を広げること。女性アスリートは“現役引退後”に結婚や出産を考えるケースが多く、「じゃあ、何歳まで現役でいられるの?」ということになってしまいます。私は、女性が子どもを産み、育てながら競技を続けられるよう環境を改善したい。今回ラグビーを始めるにあたって、ラグビー協会さんにはベビーシッターをつけられる制度を作っていただきましたが、そういったママさんアスリートへの制度がもっと整備されればいいな、と思います。3つ目は、陸上やラグビーなど、女性スポーツの価値をもっと上げたいです。

 

「4足のわらじ」をはいてキャリアを重ねた日々

2013年に陸上選手を引退した後で上京し、陸上教室や講演をしながら、早稲田大学 人間科学部 人間情報科学科を受験しました。というのも、高校卒業後に陸上の実業団を持つ専門学校に入ったので、現役を引退したら大学に行こうと決めていたんです。

そして、スポーツマネージメントの会社で経理や選手のスケジュール管理の仕事をしているときに、妊娠がわかりました。2014年4月大学入学後に会社を退職して8月に出産、12月から2つ目のマネージメント会社で働きながら、個人で陸上教室も継続しています。2016年9月に女子7人制ラグビー選手として再始動し、2017年3月に大学を卒業しました。

…と、出産してから様々な活動をしているので、「子どもをどう育てているんだろう?」と疑問が湧くかと思います。なかなか東京はキビシイ所でございまして(笑)、0歳児保育へ入れることができなかったので、主人の母が家で子どもを見てくれています。

子どもを保育園に預けられないし、学校の授業やレポートも多く「どうやって生きていこうか…」と、一日のスケジュールを模索し続けていた中で選手生活も加わり、“家庭、選手、仕事、学生”と4足のわらじをはいた日のサイクルが以下のようになりました。

一日のサイクル

6:00 起床、朝練習
8:00 朝食
8:30 勉強 or 子どもの用事
12:00 昼食
12:30 勉強&家事&仕事(子ども昼寝)
15:30 移動
16:30 自主練→チーム練習
19:30 移動
20:30 夕食
21:00 勉強
1:30 睡眠

睡眠は5~6時間取れればいい方です。子どもの寝ている時間がゴールデンタイムで、勉強、家事、仕事を並行して済ませました。練習時間は動かせないので、1時間の移動時間に教科書を読みレポートをまとめるなど、競技に集中する時間と、並行して何かをする時間とを分けました。

 

「目標」まではあと何日?あと何時間使えるの?

“1108”、この数字は何を表していると思いますか?実は、今日(2017/7/13)から五輪開催までの日数です。そして“174”、こちらは2017年が終わるまでの日数です。短いですね(笑)!私は、自分の目標まで「あと何日・何時間使えるか」を知ることが、とても大切だと思っています。時間をどのように使い、今日の終わりまでに何をすべきか、組み立てることが必要です。

私は、2020年にラグビーでメダルを獲得したい!銀座のパレードに出たい!と思っています。この大目標まではあと3年ですね。次の中目標は、スプリント力を磨いて捕まらない&相手を捕まえられるプレーヤー になり 、World Rugby 7sでBest 3に入りたい。ここまでが2年です。そして1年以内に、スプリント力向上とタックルされても飛ばない身体づくり、ハンドリング&タックルの精度向上、日本代表として試合出場、(現在骨折しているので)代表復帰が必要だと考えています。このように、自分の目標を明確にし、達成までにかかる時間を試算した方がやりやすいと考えました。

さらには、“集中してできる作業”と“並行できる作業”を分けました。練習は集中しないと危ないですし、身体や頭に入り込まないので、練習は練習“だけ”に集中します。ですが、家事は子どもに手伝ってもらったり、おしゃべりしながらしたりと、遊びと並行してできます。また、練習の移動時間に授業の疑問点やレポートをまとめておくことで、夜は論文をスムーズに書くことができました。

 

自分以外でもできることを人に「任せる」のも必要

ですが、並行して家事や勉強をしても、どうしても無理な状況が出てきます。そんなとき、“自分しかできないこと”と“自分以外にお願いできること”を区別し、任せられるものは人にお願いすることで、作業効率が上がりました。保育に関しても「全部自分でやろう」という想いはあったのですが、無理な状況になったときにプライドを捨て、義母にお願いすることにしました。ただ、「忙しいからできない」とチャレンジしないのはもったいないので、自分の可能性を狭めずにいたいなとは思っています。

具体例として、パソナ「クラシニティ」のような家事代行サービスを利用したり、保育園やベビーシッターさんに頼ったりします。夫には、洗濯やゴミ出しなどの家事を任せます。更には、ネットスーパーや便利家電などの機能に家事を任せれば、かなり負担が軽減できるでしょう。

このように、様々なことを並行して行うことで1つ1つが精査され、精度が上がり、無駄な時間を過ごさなくなったのが良かったです。

今の私には“2020年にメダル獲得”という目標があるのですが、将来アスリートを引退するとき、自分に何が残っているのかを考えていないと「怖いな」と思っています。日本には、長期間一つのことを集中して行う美学があるのですが、(アスリートにとって)それは少しリスキーだな、と。私は目標に向けて頑張りながら、その後を見据えたキャリア形成も同時進行で行っているつもりですし、子どもに教育を受けさせて将来の選択肢を広げてあげたり、競技を続けながら働いたり子育てをしたりと、アスリートの選択肢を広げたいです。

 

自らのチカラでキャリアを切り拓くためのヒント

~ 講演終了後、質疑応答の時間が設けられました ~

―欧米では一般的な「ママさんアスリート」が日本で当たり前になるには、何が必要だと思いますか?
「海外ではアフターパーティや選手村にお子さんを連れてくる女性アスリートが多く、私もなぜ欧米では当たり前なのかを考えました。日本では1年産休を取ったり身内に頼ったりしますが、欧米では生後半月でベビーシッターさんを使う方もいます。考え方や文化が違うのかもしれませんし、日本はシッターさんなどの費用が割高という理由もあります。意識やシステムが変われば、もっとママさんアスリートが増えると思います。」

―仕事と競技をどれくらいの割合で行うのがいいと思いますか?
「選手でいる以上、まずは選手でやることを第一に考えなければいけないと思うので、チームや個人の練習時間を取らせていただきます。その上で勤め先の理解が必要になりますが、無理に受けてできない方が申し訳ないので、自分の『できる/できない』をハッキリ伝えます。」

―地方に拠点を置くアスリートが寺田選手のようにキャリアを切り拓くには、どんな仕組みが必要でしょうか?
「(地元の)北海道で今と同じことができるかと言われれば、少し考えてしまうかもしれません。アスリートを受け入れる企業の母数が少ないですし、地元を盛り上げる人がいないと進まないでしょう。私も、北海道にそんな企業が増えればいいなと思っていますが、まずは知ってもらうことが大切ですので、地元に向けて発信していきたいです。そして2020年をきっかけに、地方でもアスリートに関わりたい、アスリート支援を真似たいという人や企業が増えるといいなと願っています!」

 

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