トレーニングをするための正しい知識 ~概論~


トレーニングを日々実践またはこれからチャレンジしたい方々に向けて、トレーニングに関する様々な知識を、これから定期的に紹介していけたらと思います。
今回は初回なので、トレーニングに必要となる知識の範囲について全般的に説明したいと思いますが、その前に、まず簡単な自己紹介をさせてください。

 

特定非営利活動法人NSCAジャパンとは

NSCAジャパンは、米国コロラド州コロラドスプリングスに本部を持つNSCA(National Strength and Conditioning Association)の日本支部です。

1991年に設立され、日本におけるストレングストレーニングとコンディショニングの指導者の育成や継続教育、研究に裏付けられた知識の普及を通じて、一般の人々に対する健康の維持・増進から、アスリートに対する傷害予防、パフォーマンスの向上等に貢献すべく、啓蒙活動を行っている団体です。

1.トレーニングの概要

“トレーニング”という言葉から、皆さんはどのようなことを思い浮かべるでしょう。
「きつい」「やりたくない」という人から、「毎日でもトレーニングしたい」という人もいると思います。

では、本来トレーニングとは一体どのようなものを指すのでしょう。ここでいうトレーニングとは、身体トレーニングのことですが、世界大百科事典第2版によると、トレーニングとは「環境や運動の刺激に対する人体の適応性を利用し、身体運動を行うことによって意志力を含めた人間の体力を高めること、もしくはその過程をいう」と記載されています。

「意志力を含めた人間の体力を高めること、もしくはその過程」という部分から、トレーニングは心と身体の両方の機能を向上させる行為ともいえるかもしれません。
実際、運動・トレーニングを行うことで、脳の前頭前野や海馬と呼ばれる部分の体積が増えることで血流が増加し、脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加するといわれています。この脳のBDNFの低下がうつ病の原因の一つともいわれているため、BDNFを増やす作用がある運動は、うつ病の改善や予防に対し大いに期待できるでしょう。

参考文献:Endurance training enhances BDNF release from the human brain.
Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 298: R372–R377, 2010

さて、多くの方は身体を鍛えることを“トレーニング”と呼ぶことが多いと思いますが、米国ではトレーニングのことをワークアウトと呼びます。トレーニングという言葉の本来の意味は、「訓練」、「養成」「鍛錬」等、本人の意思に関係なく“やらされるもの”という意味合いが強くなるのに対し、ワークアウトは「練習」、「運動」、「体操等」、いわゆる健康維持・増進のための運動から本格的な筋力トレーニング等を“自らの意思で行う”というニュアンスがあります。日本では「トレーニング」という呼称が一般的ですが、双方の言葉が持つ微妙なニュアンスの違いについて参考までに覚えておくとよいかもしれません。

 

2.身体づくりに必要なこととは

①身体の構造の理解

トレーニングを始める前に、身体の構造をよく理解する必要があります。そしてそれは、人間の身体はどのようにして動くのかといった身体の構造等に関する機能解剖学や、運動生理学を勉強することから始まります。

では、ここで問題です。人間の骨と筋肉の数はいくつあるでしょう?

 

 

正解)実は骨は全部で206、骨格筋(骨格を動かす筋肉)は400以上あるといわれています。

 

これらたくさんの骨や筋肉は、脳からの命令を受けて活動が可能になります。日常生活の中で走ったり、ジャンプしたりする場面があると思いますが、我々は何らかの行動に移るときには、必ず脳からの指令が脳幹や脊髄を通って筋肉に伝わり、さらに筋肉に伝わった刺激を、筋内に分布している感覚器(刺激を感知する受容器)がキャッチし、その情報が即座に脳に送られ、動きを修正しながら身体活動を行っています。例えば、幅10cm、高さ1.25mの平均台を歩きなさいと言われたらどうでしょう。

普通は平均台から落ちないよう、バランスを取りながら慎重に歩きますよね。このようなときは、何も考えずに道路を歩くのとは違って、頻繁に脳と筋肉の間で情報交換が行われているのです。つまり、当たり前のように送っている日常生活からスポーツ活動に至るまで、すべて脳からの刺激(指令)とそれを受け止める筋肉・感覚器が正常に機能して、はじめて身体活動が成り立つことを覚えておきましょう。

②栄養・食事

さて、トレーニングを始めるにあたって、機能解剖学や運動生理学等の重要性については前述したとおりですが、もう一つ忘れてはならないものがあります。

それが、食事(栄養補給)についてです。一般の方であれば、食事に関しては、「お腹が減ったから何か食べよう」というのが普通ですが、アスリートをはじめ何らかの目標や目的に向けてトレーニングを行っている方は、ただ食べればよいというわけではなく、個々の目標、目的に応じた食事や栄養補給が必要になります。

そこで重要なのが、三大栄養素と呼ばれるタンパク質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrate)です。この三大栄養素をいかにバランス良く摂るかによって、トレーニングの成果もかなり変わってくるといえるでしょう。ちなみに、これら三大栄養素のバランスのことを、それぞれのアルファベットの頭文字をとってPFCバランスと呼びます。PFCバランスの目安としては、タンパク質15%、脂質25%、炭水化物60%が理想的だといわれていますが、アスリートの場合、競技種目によってはそれぞれの摂取比率が変わる場合もあります。また、上記の三大栄養素にビタミン、ミネラルを加えて五大栄養素、さらに食物繊維を含め六大栄養素と考える見方もあります。ビタミン、ミネラルは微量栄養素ですが、骨や歯の形成、筋肉の収縮、神経の伝達等、健康な身体を維持する上で欠かせない栄養素で、一方の食物繊維は腸内環境等を整えるという意味で重要であるとされています。

一般の方の場合、漠然と健康のために何を摂ればよいかという視点で食事を考えることが多いのに対し、アスリートの場合は競技で勝つための食事・栄養補給が求められるため「美味しさ」は二の次となります。もちろん美味しいものを食べるに越したことはないのですが、食事の美味しさよりも勝負に勝つことが優先されるため、例えば筋肉の基となるタンパク質を多めに摂取し、脂肪分をできるだけ控えるなど、いかに高純度な“燃料”を体内に補給するかということに重点が置かれます。そして食事から補えない部分や不足しがちな栄養素に関してはサプリメント(栄養補助食品)で補給する場合もあります。

このようなことから、トレーニングの知識に加え、食事のことやサプリメントに関する基礎知識を身につけておくことは非常に重要だといえるでしょう。

3.トレーニング方法

一言でトレーニングといっても、筋力トレーニング、持久力トレーニング、柔軟性トレーニング、コーディネーショントレーニングなど様々な方法があり、トレーニング前に気を付けておくべきこととして、それぞれの目的や目標(ゴール)に適したトレーニング方法を選択することが重要になります。そして、トレーニングする目的や目標から、トレーニング方法を明確にすることで、自分に必要なトレーニングの種目、強度、量、頻度等が分かってきます。

また、これからトレーニングを始めようという方は、トレーニング機器、器具の種類やトレーニング種目の名称等についても勉強しておく必要があります。例えば、脚のエクササイズ一つ取ってもスクワット、レッグプレス、レッグカール、レッグエクステンション、カーフレイズ等の種目があり、どの種目が身体のどの部分を鍛えるエクササイズなのか知っておく必要があります。種目名を見ただけで、どの部分を鍛えるエクササイズなのか即座にイメージできるようになりましょう。なお、世間一般では、筋力トレーニングのことを略して「筋トレ」といいますが、身体に負荷(抵抗)をかけるエクササイズを総称して、レジスタンストレーニングといいます。今後、トレーニングを経験していく中で、比較的多く出てくる単語なので覚えておくとよいでしょう。また、代表的なレジスタンストレーニングに、バーベルやダンベル等を使用するフリーウェイトエクササイズと、マシーンを使用するマシーンエクササイズの2種類があります。

 

 

上記2つのエクササイズについて、まずフリーウェイトエクササイズの場合は、動作中の軌道が“自由”(実施者に委ねられる)であることに対し、マシーンエクササイズは動作中の軌道が“固定されている”というところに大きな違いがあります。つまり、フリーウェイトエクササイズは、軌道が固定されていないため「押す」「引く」「挙げる」等の動作に加え、自分自身で重りをコントロールする(バランスを取る)能力が求められます。一方、多くのマシーンエクササイズの場合、マシーンの構造上決められた軌道に沿って「押す」「引く」「挙げる」等の動作を行うため、重りをコントロールする必要がありません。そのため、マシーンエクササイズは、フリーウェイトエクササイズに比べて難易度が低いといえるでしょう。

ただ、両方のエクササイズにも長所・短所があるので、自身の目標や目的に応じて上手に使い分ける必要があることを覚えておきましょう。

 

まとめ

これからトレーニングを開始する方は、自分がどうなりたいのか、目標をしっかりと設定し、それぞれ目標に見合ったトレーニングを行うことが重要です。さらに、トレーニングテクニックだけでなく運動生理学や機能解剖学について勉強すると、より理解が深まるため、出来る範囲で勉強することをお勧めします。最初は誰でも初心者です。まずは自分に見合った方法でトレーニングを始めてみましょう。何か道が開けるかもしれません。

 

特定非営利活動法人 NSCAジャパン 沿革

1991年4月1日 NSCAジャパン設立。
     顧問に寬仁親王殿下、理事長に窪田登氏(早稲田大学名誉教授)就任。
1993年 NSCAジャパンにて英語で1回目のCSCS認定試験を開始。
1994年 会員向け機関誌『NSCAジャパン・ジャーナル』を創刊。
1995年 日本語でのNSCA-CPT試験を開始。
1999年 日本語でのCSCS試験を開始。
2001年 NSCAジャパン会員が1,000名を超え、東京都へNPO法人としての活動開始。
2016年 設立25周年を迎え、NSCAの第5回国際カンファレンスを日本(幕張メッセ)にて開催。
2017年 専用施設「NSCAジャパンHuman Performance Center」を千葉県流山市に開業。

ライタープロフィール

特定非営利活動法人 NSCAジャパン
ヒューマンパフォーマンスセンター マネージャー
木須 久智 (きす ひさとも)

筑波大学大学院体育研究科修了、専門は運動生化学。「レジスタンス運動における内分泌応答と眼圧の関係について研究を行う」。修了後は医療福祉系専門学校の非常勤講師およびフリーランスのパーソナルトレーナーとして活動。2009年4月にNSCAジャパン事務局に入局、同事務局では試験、会員管理、広報等、各部署を担当し、2017年4月からNSCAジャパンヒューマンパフォーマンスセンターの施設長を務める。
資格:CSCS, NSCA-CPT
一言:筋トレを通じて健全なココロとカラダを手に入れましょう!

 

トレーナープロフィール

特定非営利活動法人 NSCAジャパン
ヒューマンパフォーマンスセンター ディレクター
ヘッドS&Cコーチ
吉田 直人 (よしだ なおと)

中央大学経済学部卒業後、一度は金融業に就職するも、トレーナーの道を選ぶ。ウイダートレーニングラボヘッドS&Cコーチとして、育成年代からプロ選手まであらゆる競技のアスリートを指導したほか、ビーチバレーの草野選手や、ミス・ユニバース・ジャパンのモデルらの身体作りにも従事。その後、ジャパンラグビートップリーグHonda HEATヘッドS&Cコーチとして5年間従事し、2017年4月よりNSCAジャパンヒューマンパフォーマンセンターヘッドS&Cコーチを務める。
資格:CSCS,NSCA-CPT